健康・安全

人間の注意力、無注意

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見ることに集中していると、音が聞こえない(2015年12月10日)

 あるものを集中して目で追っていると(selective attention=選択的注意)、その同じ目の前を横切っているものすら見えない。これが「見ているのに見えない」(無注意性盲目、inattentional blindness。「不注意」ではないので「無注意」または「非注意」)という現象です。その有名な実験は、こちらにあります。

 もうひとつ、無注意性聾(inattentional deafness)という現象もあるようです。電車の中で本を読んでいたら、次の駅名を聞き損ねて降りられなかった、スマートフォンを見ていたら、同僚から声をかけられたのに気づかなかった、後ろから走ってくる車の音に気づかなかった、ゲームに熱中している友人をいくら呼んでも返事をしない…。目でなにかを追うのに一所懸命で、聞こえていない。これが無注意性聾です。

 英国のUniversity College of LondonのNilli Lavie教授らのグループによると、視覚と聴覚は脳の連合皮質と呼ばれる場所にあり、機能を共有しているそうです。視覚と聴覚に割り当てられている領域は限られているため、視覚と聴覚の両方を使う作業をすると、脳はどちらを選ばなければならなくなり、結果として視覚と聴覚の両方を使ったマルチ・タスク(一度に見ると聞くをする作業)に失敗するということです。「私たちが聞くためには、耳が働いているだけでは不十分。脳がその音に反応しなければならない」(Lavie教授)。無注意性聾そのものは現象として知られていましたが、このグループは初めて、脳磁図(magnetoencephalography, MEG)を用いて、現象の裏側で起きている脳そのものの働きを調べました。

 Lavie教授らのグループが行った実験では、被験者はコンピュータ画面を見てそこに現れる文字に反応するという作業をしました(被験者は計13人)。実験中、被験者が着けているヘッドフォンからはずっと音が流れていました。被験者の脳スキャンを見てみると、スクリーン上の作業が大変になって被験者が集中するほど、流れている音に対する反応は下がったそうです。また、スクリーン上の作業が大変な時ほど、被験者は音を感知しそこねたのです(聞こえる大きさの音であるにもかかわらず)。作業が軽微な時は、音を感知するのに困難はなかったようです。

 無注意性聾は実生活の安全という面で非常に大きな意味を持っている現象ですが、それだけでなく、人間関係にも影響を与えかねません。スマートフォンやコンピューターを見ている人に呼びかけても返事が返ってこない、「…」「…」「ちょっと! 聞いて!」ということはよく起こります。「無視されていると思うかもしれませんが、その人の脳はあなたの声に反応できないのです。だから、そういったことが起きた時に個人的にとる(無視されていると思う)必要はありません」とLavie教授は言っているそうです。

 記事は、Tech Times (Dec 9, 2015)。論文は、Journal of Neuroscienceに掲載。