その他

脳、感情、行動、姿勢(態度)


●スマートフォンや携帯の「うつむき姿勢」が感情や記憶、行動に影響(2015年12月20日)
●「感謝」の意識・表現が、幸せ度や健康に影響(2015年12月13日)
●「畏れ」をもつ(2015年8月23日)




スマートフォンや携帯の「うつむき姿勢」が感情や記憶、行動に影響(2015年12月20日)


  頭の重さは平均4.5~5.5キロだそう。ところが、頭を前方に60度傾けた「うつむき状態」になると、首にかかる頭の重さのストレスは約60キロにも。これは12月12日のNew York Timesの記事で紹介されていた、ニュージーランドの理学療法士 Steve Augustさんの説明です。この「うつむき状態」が、携帯やスマートフォンを見ている時の首の曲がりぐあいで、言うまでもなく、からだに悪い姿勢です。

 うつむいて肩をすぼめた姿勢は、臨床的にうつ病と診断された人に特徴的な姿勢でもあるそう。そして、やっぱり…。この姿勢そのものが、人間に感情の変化をもたらすようです。

 今年、University of Auckland(ニュージーランド)のShwetha Nair他の研究グループが発表した論文は、こんな実験です。74人(うつ病等はない人たち)をランダムに2群に分け、1群は首をうつむかせた状態、もう1群は背筋から頭までまっすぐにした状態でストレスの高い面接を受けさせたのです(被験者にストレスをかけるために実験でよく用いられている、就職面接を模したもの)。すると、「うつむき群」は「直立群」に比べ、統計学的に有意に(偶然以上の確率で)自尊感情(self-esteem)が低く、気分も下がっていて、恐怖心も強かったという結果でした。発言も「うつむき群」のほうが否定的でした。この論文は、「まっすぐ背筋を伸ばして座ること自体、ストレスに対する耐性を作るのを助けるひとつの行動的戦略かもしれない」と書いているとのことです。

 また、University of Hildesheim(ドイツ)の研究者たちがうつ病に罹患している人たちを対象に行った単語の記憶実験によると、「うつむき群」は「直立群」に比べて、否定的な言葉をより多く思い出したそうです。さらに、日本の関西学院大学の研究グループが調べた研究によると、姿勢を正して直立姿勢で座った状態の小学生は、文章を書く作業がより上がったとのことです。

 一連の研究を紹介しているNew York Timesのこの記事の筆者(Amy Cuddy, Harvard Business School 教授)たちが、事前研究(本格的な実験等を行う前段階のもの)として行った実験によると、使っている画面が小さくなればなるほど、使用者の行動はより消極的になったそうです。この実験では、デスクトップ・パソコン、ノート・パソコン、タブレット、スマートフォンの4種類のうち1つを被験者が渡され、その画面上で作業をします。作業が明らかに終わった後、実験者は何も言わず被験者をそのまま待たせておくのですが…、小さい画面の機械(例:スマートフォン)で作業をしていた被験者は、大きい画面の機械(例:デスクトップ・パソコン)で作業をしていた被験者よりも有意に長い時間、待ち続けた(「もう出ていってもいいですか」と聞くまでに時間がかかった)という結果でした。画面が小さくなればなるほど、うつむき、からだを丸めて作業するため、それだけ消極的かつ従順な姿勢(態度)になるということのようです。

 この記事の筆者Amy Cuddy教授は、「小さな機械を使うことで生産性や効率を高めているはずが、実は逆に私たちの積極性を下げ、生産性も下げているのかもしれない」と書いています。そして、「ちょっと高い位置にスマートフォンを持ち上げることになったとしても、頭を上げて、肩を後ろにひいた姿勢になったほういい」とアドバイスしています。

 スマートフォンを見る時の「うつむき姿勢」が気分、記憶、そして行動にさえ影響するという話でした。


★ この記事に掲載した英語の論文、記事、ニュース(掲出順)
"Your iPhone Is Ruining Your Posture — and Your Mood" (New York Times, 2015/12/12)
"Do slumped and upright postures affect stress responses? A randomized trial" (Health Psychology, 2015)
"Sitting posture makes a difference-embodiment effects on depressive memory bias" (Clinical Psychology and Psychotherapy, 2014)
"Effect of a classroom-based behavioral intervention package on the improvement of children's sitting posture in Japan" (Behavior Modification, 2009)
"iPosture: The Size of Electronic Consumer Devices Affects our Behavior" (Harvard Business School Working Paper, 2013)




「感謝」の意識・表現が、幸せ度や健康に影響(2015年12月13日)


 気持ち(感情や態度/姿勢)と行動の関係は、必ずしも「気持ちが先にありき」ではありません。からだの動きや言動と脳の機能は相互に結びついていますから、「行動に気持ちや態度がついてくる」ことも当然あり、実際にたくさんの例があります。たとえば、こちら(NPOのページに飛びます)に書いた「真の笑顔(デュシェンヌ・スマイル)」と幸せ感(脳内エンドルフィン分泌)の話は、そのひとつ。そして、行動中心主義の私にとって「その通り!」な一連の研究結果が、もうひとつ。米国の感謝祭(Thanksgiving Day)にかけて取り上げられていた、「感謝の気持ちを意識して表現することで、幸せ度が上がる」「心血管の健康にも寄与する」というものです。

 人生がどんなに大変でも、「ああ、今日はこんなことがあって嬉しかったなあ、ありがたい」「今日は友だちにこんな言葉をかけられた。感謝感謝」と感じることは、毎日一つや二つはあるもの。大変な一日なら、小さな嬉しいことでもよけいに嬉しい。それを「ありがとう」「ありがたい」「感謝します」と意識すること、表現することで、脳(からだ)の感じる幸せ度が実際に上がるのです。


●感謝を意識/表現することが「幸せ度」を高める

 これまでの研究をまとめたのが、New York Times(2015年11月21日)のこの記事。執筆者は、American Enterprise Institute(世界経済や政策に関する研究を実施/支援する組織)の代表Arthur C. Brooks氏。自分の経験から、「感謝の気持ちがないのに『感謝している』と表現することには意義があるのか?」という疑問を持ったのだそう。

 Brooks氏が最初に紹介しているのは、2003年に発表された研究。参加者をランダムに分け、ひとつのグループには、「今週、感謝の気持ちを感じたこと」のリストを書いてもらい、あと2つのグループには、それぞれ「大変だったこと」「なんとも感じなかったできごと」を書いてもらいました。10週間後に「生活の満足度」を測ると、最初のグループは他の2グループに比べ、有意に高い満足度を感じていたのです。同様の実験は複数あり、いずれも同じ結果だそうです。意識的に感謝を感じていようといまいと、「感謝している」と表明することで幸せな気持ちになれるのです。

 これはまさに、頬骨筋を上げて「笑顔の表情になる」ことで肯定的な感情が生まれるのと同じプロセスだと、Brooks氏は書いています(Brooks氏が紹介している1993年の実験は、「真の笑顔」のページの5にある実験のひとつ)。そして、「わざわざ笑顔をつくるなんて気持ち悪い、と思うなら、感謝の気持ちを表現してみては」とも。2008年に発表された論文によると、感謝の感情は、脳の海馬(ストレスをコントロールする部位)と中脳の腹側被蓋野(ふくそくひがいや。報酬回路を司り、快の感覚を引き起こす)を刺激するのだそうです。


●「感謝の意識化、表現」は、心血管の健康にもつながる

 過度なストレスやうつ、不安が心血管疾患のリスクを上げる一方、ポジティブな(明るい、前向きな、肯定的な)姿勢/態度が心臓や血管系の健康に良い影響を与えるということは、すでにわかっています。University of California San DiegoのPaul Mills医学部教授は、特に感謝(gratitude)の気持ちが心血管系の健康とどう関係するかを調べたそうです(論文のリンクはこちら)。このニュースは、米国National Public Radioで流れていたものです(2015年11月23日)。

 Mills教授は、高血圧が何年も続いていたり、心不全の発作を起こしていたりと、すでに心血管系に問題がある186人の男女(平均年齢66歳)を集めました。そして、標準化された「感謝度調査票」(※)を用いて、この人たちがまわりの人や、住んでいる場所や環境に感謝の気持ちを抱いているかを調べたのです。すると、「感謝度」の高い人ほど「落ち込みが少なく、睡眠の質も良く、エネルギーがある」という結果でした。また、血液検査の結果、「感謝度」の高い人ほど、血管の健康度も高いという結果でした。

 さらにMills教授は、この実験の参加者のうち40人について後追い(follow-up)研究をしました。最初に40人の心血管の状態を調べ、心臓の炎症や心拍異常といった生物学的指標を測りました。そして、半数の参加者には(ほぼ)毎日、その日に「感謝の気持ちを持ったこと」を2、3、書き留めるよう依頼したのです。参加者が感謝した対象は、家族、友人、ペット、旅行、仕事、食べ物など、ありとあらゆるものだったそうです。残りの半数は、このような記録をしませんでした。

 2か月後、Mills教授がこの40人の健康状態を再度調べたところ、感謝の気持ちを持ったことを書き留めたグループでは、心臓にみられた炎症の程度が下がり、心拍の状態も改善していました。「感謝の書き留め」を始める前と後とでは、心血管疾患リスクも下がっていました。

 Mills教授は、感謝が心血管の健康に影響を及ぼす具体的なプロセスはまだわからないとしつつも、感謝の気持ちを持つことがストレス低減につながると考えていると話しています。「ありがたいと感じたことに気持ちを向けて、感謝の感情で包まれてみる。これは(ストレスを)マネジメントして(ストレス状況に)対処するのに役立つ」(Mills教授)。そして、ストレスが下がることは、心血管の血管にもつながるということです。


●感謝の行動習慣は、人間関係にも、自分にも効く

 New York TimesのBrooks氏の記事によると、遺伝子の研究(2014年)から、「何に対しても感謝の気持ちが強い人」の遺伝子変異もみつかっているそうです。そういう遺伝子変異がなくても、感謝の気持ちを自分の心の中で意識してみる、あるいは/そして、その気持ちを表現してみることで感謝の行動習慣は身につくでしょうし、これはまず、自分の心とからだの健康にとって良いことのようです。

 また、感謝の行動習慣は、他人を動かす上でも効果がある様子。Brooks氏が紹介している別の実験(2011年)では、こんな結果が出ているそうです。権力を持っているものの、感情的に不安定な(=自信がない)人は、他人からその能力や適性を疑われると怒りや個人的な中傷に走りがちだけれども、まず感謝の気持ちを表現されてから働きかけられると、怒りや中傷といった行動が減るというのです。論文の抄録によると、感謝の言葉によって「自信のなさ」が薄まり、その後の反応がやわらぐためと説明されています。

 時には文句も愚痴も言いたくなりますが、文句も愚痴も言えば言うほど感情自体が悪化しますし、なにより、文句や愚痴を言うこと自体が行動習慣になります。「ありがとう」「ありがたい」は、人間関係に効くだけでなく、心とからだの健康のための行動習慣でもあるようです。下の記事(「畏れ」をもつ)に書いたことにも共通する点でしょう。。


※ 感謝だけでなく、さまざまな「主観的な感情」は、一人ひとりの感じ方、表現のしかたによる差異があるため、計測するのが非常に難しいものです。そのため、こうした主観的感情の尺度は、さまざまな研究と実験を経て「これなら、ものさしとして使える」という標準化の過程を経てから使われるようになります。


★ この記事に掲載した英語の論文、記事、ニュース(掲出順)
"Choose to Be Grateful. It Will Make You Happier" (New York Times, 2015/11/21)
"Counting Blessings Versus Burdens: An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life" (Journal of Personality and Social Psychology, 2003)
"The Neural Basis of Human Social Values: Evidence from Functional MRI" (Cerebral Cortex, 2008)
"The Role of Gratitude in Spiritual Well-Being in Asymptomatic Heart Failure Patients (Spirituality in Clinical Practice, 2015)
"Gratitude Is Good For The Soul And Helps The Heart, Too" (NPR, 2015/11/23)
"The Gratitude Questionnaire: Six item Form" (Dr. Michael McCullough, University of Miami)
"Evidence for a Role of the Oxytocin System, Indexed by Genetic Variation in CD38, in the Social Bonding Effects of Expressed Gratitude" (Social Cognitive and Affective Neuroscience, 2014)
"Power, Defensive Denigration, and the Assuaging Effect of Gratitude Expression" (Journal of Experimental Social Psychology, 2012)




「畏れ」をもつ(2015年8月23日)


 先日、キリスト教教会系列の保育園・幼稚園施設の皆さんにリスク・マネジメントのお話をさせていただきました。ちょっと遅れて会場に入ると、リーダーの方が開会のお話を始めたところ。その中の「畏(おそ)れをもって、(保育園、幼稚園の)仕事に取り組む」という言葉がふっと私の耳に飛び込んできて、「え」と思ったのです。「あ、この言葉だ」と。

 米国にいた5年間、時々、「あなたは仏教徒か」と尋ねられました。「いや、違う」と答えると、「宗教をもっていないのか」とさらに尋ねられます。その時いつも、「私は、宗教(religion)はもっていないけれども、信仰(faith)はもっている」と答えました。なんであるかは(私にとっては)明確でないけれども、「なにか大きな存在」に対する信仰です。これは、2004年のコロラドの交通事故、さらには2012年の日本での交通事故を通じて、さらに強まっています。「生かしていただいている」「勉強と仕事をさせていただいている」という信仰、faithです。死んでいてもまったくおかしくなかった交通事故の後、まだ私が生きていて、この仕事をしているということは、「生かしていただいている」ことに他なりません。

 「畏れ」とは、まさに「今、ここに生かしていただき、自分が今、ここですべきことをさせていただいている」という気持ちです。「恐れ」ではないのですが、少しは「恐れ」も入っているかもしれません。まるで自分自身がすべての原動力であるかのようにおごりたかぶった瞬間、「今、ここ」は終わってしまうからです。そして、すぐにおごりたかぶるのが、人間だからです。どんな仕事であっても、あるいは仕事に限らずどんな状況であっても、「~していただく」だけでなく、「~させていただく」なのだと私は思いますし、それが命と直接に接する仕事である以上、「~させていただく」という姿勢はさらに必要不可欠なのではないかと私は思っています。

 その日、研修会が終わった後の(参加園の)交流会にも出席させていただきました。開会の時から気づいていたことですが、会の節目節目にすべてお祈り(祷)が入ります。「これから研修会ですから、しっかり学びましょう」「交流会で楽しく交流しましょう」、その内容の中に祷の言葉が(特別な言葉ではなく、誰にでもわかる普通の言葉で、その時の文脈に合わせて)織り込まれているのです。

 お祈りの言葉をひとつひとつ聞いている時、私がリスク・マネジメントの中で「言葉を口に出すこと」の重要性をいつもお伝えしている点と重なりました。

 「言葉を口に出す」、それはまず自分にきちんと言い聞かせること、そして自分が思っていることを自分自身に伝え、他人と共有することです。「ありがとうございます」と口にするから、感謝の気持ちは自分の腑に落ちるのです。「ごめんなさい」「申し訳ありません」と口にするから、他人に迷惑をかけた、他人を傷つけたという事実を自分に再確認できるのです。そして、「ありがとう」「ごめんなさい」を、きちんとした言い方で言っている自分を観察することを通じて、「感謝や謝罪をしっかり伝えている自分」を知るのです。「ありがとうございます」「ごめんなさい」をしっかりとした言い方で伝えなかったら、心の中に感謝や後悔、改善の気持ちは生まれません。

 畏れの気持ちと感謝の気持ちをはっきりと口に出す。何度も何度も折に触れて口にする。他の人が同じように畏れの気持ちと感謝の気持ちを口にしているのを毎日、何度も聞く。すぐにおごりたかぶってしまう私たち人間、まるで自分一人の力で生きているような気持ちにすぐなってしまう私たち人間にとっては、この「畏れと感謝を明らかに口にすること」が今、とてつもなく大事なのではないかと、この日からずっと考えています。


※このページに掲載されている内容は、あくまでも情報発信です。質問などはお受けしていません。参照元などをご自身でご覧いただき、まわりの方とお話しになる材料としていただければ幸いです。